Argentino

休日の昼下がり
自室をノックする人間が居た
読んでいた本から顔を上げ、相手が名乗るのを待つ
普通はここで名前を聞くのが礼儀というものだが、大体予想がついていたのでただ待つ
期待通り、ドアをノックしてから数拍遅れてドアの向こう側から声が室内に届いた

「ルルーシュ、僕だ」

予想が当たっていた事に自然と笑みが顔を彩り、来訪者を迎える為に足がドアへと向かう
開いたドアの先、立っていたのは彼の予想と寸分もたがわない銀髪の恋人だった

「ライ」

「ルルーシュ、差し入れ」

ライはそう言って手に持っていたおぼんを僅かに持ち上げてみせた
その姿の愛らしさに眩暈を覚えながらも、体をずらして差し入れに来てくれた彼を部屋に招き入れる

「お邪魔します」

律儀に挨拶をするライ
その初初しさに何故だか照れてしまう
ライは机の上におぼんを置き、慣れた手付きで部屋の隅に置かれた小さな折り畳み式の小机をベッドの脇、部屋のほぼ中央に置いた
ライと出掛けた先で偶然見つけた小さな机
二人で初めて選んだ品物なだけに、思い入れは深い
この机を買ってから、ライは差し入れと評して自作の菓子を持ってくるようになった
その理由を聞いたことは無かったが多分ライも、俺と同じように何かこの机に感じているのかもしれない
そうだと良いな、と考えながらベッドに背中を預ける形で小机の傍に腰を下ろす
ライは白い布巾の掛ったおぼんを小机の上に下ろし、自分も机の傍――俺の斜め右に腰を下ろした

「今日は何を作ったんだ？」

聞くと、ライは少し笑って布巾をおぼんから取り払った
布巾の下から現れたのは、２つのカップ
中には濃い黄色の固形物が入っていた

「プリンか」

「正しくは南瓜のプリンだよ」

「あぁ、だから色が違うのか」

「そういうこと。この前のハロウィンパーティーの南瓜が余ってたから使ってみたんだけど・・・」

ライは横目で俺を見て付け加えた

「ルルーシュはプレーンの方が良かったかな？」

窺うように聞くライの額を小突いてスプーンを手に取る
少し大きめのカップも手に取り、中のプリンを掬って口に入れた
あ、というライの声が聞こえたがあえて無視してプリンの味を堪能する
仄かな甘みが口内に広がり、舌の上で固形物が消える
南瓜独特の甘味はしつこくなく、後味も悪くない

余韻に浸りそうな俺を引き戻したのは、不安げなライの声音だった

「どう、かな？」

「・・・」

「ルルーシュ・・・そんなに美味しくなかった？」

沈黙した理由を不味いと勘違いしたらしいライの泣きそうな顔に、慌ててスプーンとカップを置いて手を握る

「ち、ちがうっ少し余韻に浸っていただけだっ」

「・・・余韻？」

「いや、その・・・美味かったってことだ」

正直に告げるのは少し恥ずかしかったから、とりあえず味の評価だけ告げる
すると、ライは目に見えて顔を輝かせた

「そうか、良かった」

はにかむように笑うライの笑顔に体が熱を上げていくのを感じながら、握っていた手をそっと放し、再度カップとスプーンを手に取る
ニコニコと効果音が付きそうなほど顔を綻ばせるライを見ながら、俺はライが作ってくれた新たな俺の好物を楽しんだ












「ご馳走様でした」
「……なぁライ」
「……ん？」
「実は俺には食べたいものがあるんだ」
「僕にも作れるものなら、今度作るけど……」
「いや、その必要はない」
「……？」
「食べたいのはお前だから問題ない(黒笑)」
「えぇっ！？」
「……ライ」
「うわっ、ルルーシュッ、ちょっ、た、たんまぁぁぁぁぁぁっ」(どて、ビリッ)←押し倒して、服を破いた

その翌日

ライに睨まれながらちくちくと服を縫うルルの姿が見られたとか(笑)

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